1の分割
最近,松本幸夫『多様体の基礎』を読んでいたのですがようやく楽しくなってきました.
埋め込み定理(任意のコンパクトm次元C^r級多様体 M に対し,十分次元の高い数空間 ℝ^n へのC^r級の埋め込み g:M→ℝ が存在する(1≤r≤∞).)はステートメントは格好良いなと思いましたが,証明を読むとわりと自明でした.
始めに考えついた人はすごいな.ホイットニーによると σコンパクトな多様体についても埋め込み定理が成り立つそうです.すごい.
ところで1の分割定理は次のように述べられます:
Mをσコンパクトなm次元C^r級多様体とし,{ U(α) | α∈Λ } をMの任意の開被覆とする.このとき,C^r級関数 f(j) : M→ℝ (1≤j<∞) が存在して,以下をみたす.
(1) 0≤f(j)≤1
(2) { supp( f(j) ) | 1≤j<∞ } はMの局所有限な被覆でありかつ { U(α) | α∈Λ } の細分
(3) Σ[ 1≤j ]f(j) ≡ 1
この定理は,リーマン計量の存在など多様体における様々な存在定理の基礎となるそうです.
σコンパクト多様体の性質,(俗にいう)基本的な関数の存在をポイントとして,証明がなされている気がします.
村上信吾『多様体』において1の分割定理はすこし違ったかたちで述べられています.
なにが違うのかというと,多様体にパラコンパクト性が仮定されていること,存在を示された関数全体の集合の濃度が加算とは限らないことです.
多様体はσコンパクトであればパラコンパクトなので,ざっくり言うとより強い仮定からより強い主張を導いている感じです.
『多様体の基礎』を読んでいると「必要最小限の情報から主張を引き出す」ということが大切にされているのかなと感じます.
1の分割定理において,多様体にはσコンパクト性しか仮定しませんでした.
また,多様体をC^∞級ではなくC^r級(1≤r ≤ ∞)と仮定するのがいい例です.そのせいで煩雑になっている記述も多いみたいですが.
個人的には,議論の本質がほとんど損なわれないのであれば,強い仮定をして証明を簡明に述べた方がいいのではないかという気持ちでいます.
村上『多様体』に載っている1の分割定理の証明も読んでみて,σコンパクトだとどこまで言えるのか見極めてみたいところです.